柏崎市と長岡市にまたがる八石山周辺では「山野草の女王」の別名を持つシラネアオイを「八石ぼたん」と呼ぶこともあるという。青紫色の花は優しげで心癒やされる
▼恥ずかしながら「シラネ」が日光国立公園の白根山に由来するのを最近知った。石川・岐阜県境の白山が由来のハクサンイチゲや、北海道利尻島のリシリヒナゲシなど、花にはゆかりの地名から取った名前が多い。「この花名は、あの土地と縁があるのか」と知れば、さらに親しみが湧く
▼本県原産とされるアジサイの品種にサハシノショウがある。鎌倉時代、柏崎市の鯖石地区にあった荘園「佐橋ノ荘」に由来するという。花の中央に集まる小さいつぼみのような真花と花びらのようなガクが、澄んだ瑠璃色をしたかれんな花だ
▼柏崎市出身の横村出さんの小説「放下(ほうげ)」にはサハシノショウを思わせるアジサイが出てくる。放下は柏崎や鎌倉を舞台に佐橋ノ荘の地頭、毛利家の所領争いと離散を描いた。物語の終盤に鎌倉で咲き乱れるアジサイが印象的だ
▼横村さんは昨年、鎌倉の自宅にあったサハシノショウを挿し芽にして、鯖石地区の周広院に贈った。周広院は、放下に登場する毛利家の子孫で八石城主だった毛利周広(ちかひろ)が創立した縁もある。花が咲くのはまだ先のようだが、小さな木を大切に育てている
▼横村さんは“里帰り”した花が鯖石の里に咲き、鎌倉のようなアジサイの名所になれればと願う。遠くない将来、瑠璃色のサハシノショウが地域を彩ることだろう。