「先輩」がまた一つやってくれたな。佐渡市のトキと同じように国内で一度野生絶滅したコウノトリが今月上旬、上越市でひなをかえしたというニュースを目にして、そんな思いが浮かんだ
▼トキに少し先んじて兵庫県豊岡市で野生復帰し、19年ほど。新潟県内では初めての繁殖で、全国各地でも成功している。ただ昔は普通に観察できた鳥だった
▼幕末、江戸の浅草寺を訪れた外国人はこうつづった。「寺の屋根の上にはこうのとりの大きな巣があり、二羽の親鳥とたくさんのひなが見えた」(「シュリーマン旅行記 清国・日本」)
▼コウノトリもトキも明治時代の乱獲で数を減らし、その後の環境悪化もあって、ついにはすみかを失った。野生復帰の道を振り返ると、かけがえのないものを取り戻す大変さが分かる。人工飼育、繁殖の費用はもちろん、佐渡市の農家や保護関係者は餌が豊富な環境づくりに力を入れた
▼野生に戻り、数が増えたトキは本土にも飛来した。とはいえ、まだ繁殖地は島内だけ。人工繁殖に尽力した近辻宏帰さんは生前、島いっぱいに増えた後のことを、こんなふうに想像していた。海を越えて人間に「田んぼを大事にしろよ」「みんなのすむ環境の生き物も大切にしろよ」と伝えに行く-
▼地震で大きな被害を受けた能登地域の人々もトキの生息地を取り戻そうとしている。本土で最後にすんでいた所だ。いつか佐渡から行ったトキが、ひなをかえし、かの地に光を届けられたら。とき色の翼に期待している。