不条理な侵攻で多くの人命が奪われ、街が破壊され続けている。ウクライナからロシア軍を撤退させるために日本はどう行動するのか。その覚悟が問われている。
ウクライナのゼレンスキー大統領が23日、オンラインを通じて日本の国会で演説した。
大統領は「日本がアジアで初めてロシアに圧力をかけたことに感謝している。この戦争が終わらない限り安全に感じる人はいない」と述べ、平和を取り戻すために、経済制裁を継続してほしいと協力を求めた。
侵攻は24日で1カ月となり、ロシア軍が首都キエフの包囲へ動き出した可能性が指摘されるなど状況は悪化している。
ロシア国防省はこれまでに、南東部の要衝、マリウポリを明け渡すよう要求し、ウクライナは降伏を拒否した。マリウポリは陸海空から猛攻撃を受け、3千人以上が死亡した可能性があるという。
戦闘が長期化する中で、ロシアが生物・化学兵器の使用を検討しているとの情報もある。
街全体を破壊する無差別攻撃に憤りを禁じ得ない。過酷な状況にあるウクライナ市民を一刻も早く救うために国際社会は結束しなくてはならない。
日本政府は米国などG7諸国と歩調を合わせ、ロシアに対し貿易上の優遇措置撤回やプーチン大統領の資産凍結といった経済制裁を科している。
これに対し、ロシア政府は対ロ制裁に参加する国・地域を「非友好国」に指定した。
日本には対抗措置として、北方領土問題を含む平和条約締結交渉の中断を発表。元島民の自由訪問の停止や共同経済活動からの撤退などを表明した。
だがそもそも制裁はロシアが侵攻したことに原因がある。日ロ最大の懸案である北方領土問題に転嫁してロシア側から中断を通告するのは筋が違う。
一方的な中断発表に、岸田文雄首相が「断じて受け入れることはできない」と非難したのは当然だ。
日本は安倍政権以来、経済協力を通じてプーチン大統領との信頼関係を築いてきた。岸田氏は安倍政権の経済協力事業を基本的に踏襲する構えだが、領土交渉はウクライナ侵攻前から行き詰まっていたのが現実だ。
そうした中で気になるのは、政府が今回の危機に伴ってロシアへの経済協力を見合わせながら、2022年度予算に盛り込んだ21億円の関連経費を修正しなかったことだ。
将来を見据え、日ロ協力の枠組みを維持したい思惑があったのだろう。
14年にロシアがクリミア半島を強制編入した際にも日本は対ロ政策に配慮して実効性の乏しい制裁にとどめた経緯がある。
だが中途半端な態度は、人道問題や国際法違反に甘い国だと受け取られ、制裁を強める国際社会に誤った印象を与える恐れもある。
政府は毅然(きぜん)と対応し、国際社会の一員としての責任を果たしてもらいたい。
