買い物に出かけた夫に牛乳を頼むと「牛乳って何?」と返答されたことが兆候だった。1年後、若年性認知症の一つで、言葉の意味が分からなくなる「意味性認知症」と診断された。当時夫はまだ53歳。糸魚川市に住む女性(60)から体験を聞いた

▼政府は先ごろ、認知症の高齢者数の推計を公表した。2060年に645万人に達し、65歳以上の5・6人に1人となる。65歳未満で発症する若年性認知症は約4万人いるとの試算もある

▼働き盛りで発症した悩みを抱える人は少なくない。若年性認知症を患う本人や家族の交流会が糸魚川市で定期的に開かれている。冒頭の女性らを中心に発足した

▼夫の場合、正確な診断を出したのは県外の大学病院。医療機関を巡って4カ所目だった。希少な症状で周囲の理解も得られない。生活支援の制度を手探りで見つけた。経験を還元したいと会を立ち上げた

▼糸魚川は北陸新幹線の停車駅。隣県のほか首都圏からも参加者が訪れる。富山県の男性は「高校教師だった妻が発症した。仕事にやりがいを感じていたのだが」と思いを吐き出した。発足から今春で1年が過ぎた

▼情報交換や、専門家を招いた講演会で知識を深めている。市内では9月、若年性アルツハイマー型認知症を扱った映画「オレンジ・ランプ」の上映も予定され、会も協力する。仙台市の会社員の実話が基で、認知症になっても何もできなくなるわけではないと訴える内容だ。交流が深まり、難路を進む道しるべをつかんでほしい。

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