当初の案に比べて踏み込んだ内容にはなったが、政治資金の透明化を図るにはまだ中途半端な内容だ。使途が見えない「裏金」が温存される懸念が拭えない。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた政治資金規正法改正を巡り、自民が3日、修正法案を衆院に提出した。案は4日の衆院政治改革特別委員会で採決される予定だ。

 修正法案は岸田文雄首相が公明党と日本維新の会の案をほぼ丸のみし、トップダウンで決めた。

 自民がパーティー券購入者名の公開基準額を「10万円超」として譲らない中、首相は公明が固執した「5万円超」に引き下げた。

 維新が主張する政策活動費の監査義務化や、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開も取り込んだ。

 首相は当初、各党の修正要求に耳を貸さなかったが、目指していた今国会中の法改正実現が危うくなり、態度を変えた。

 裏金問題の当事者である自民が最も甘い改正案を掲げていた。自民が譲歩するのが当然だ。

 ただ、これで政治資金の透明化が実現すると捉えるのは早い。

 裏金づくりにつながったパーティー券購入規制の施行は2027年1月で、2年半も先だ。

 不透明な資金を代表する政策活動費は、支給された政治家が大まかな項目を報告し、支出の「年月」も開示するとしたが、それだけでは適正な支出か判断しにくい。

 領収書の公開も決めたものの、公開は10年後だ。合意を急いだあまり、自民と維新で公開額の考えに開きがあったことも露呈した。

 第三者機関による監査は、在り方を検討することを付則に明記した。しかし詳細が決まるのは今後で、厳格な監査機関となるのか、現時点では見定められない。

 「抜け穴」が残る修正法案は、裏金問題の再発を防げるのか、実効性に疑問がある。

 首相は維新にすり寄る一方、立憲民主党などが求めた企業・団体献金の禁止や連座制導入には言及しなかった。維新を取り込み、野党を分断させる意図が透ける。

 重要な課題が積み残されれば、改革は曖昧になり、国民の政治不信が増幅するのは避けられない。性急に成立させようとせず、国会で丁寧に審議するべきだ。

 裏金事件を巡っては、解明していなかった還流再開の経緯で、安倍派会長代理だった下村博文元政調会長が、再開を促していたとみられることが分かった。下村氏は自身のホームページで否定した。

 3月に開かれた衆院政治倫理審査会では、下村氏の答弁に不自然な点が多く、党内からも不満の声が漏れていた。

 下村氏にはいま一度、納得のいく説明を求めたい。首相は実のある政治改革の前提として、改めて真相解明に取り組むべきだ。