窓を開けて寝た朝方、鳥のさえずりで目を覚ました。特に関心もなかった野鳥に、こつ然と興味をそそられた。年を取ってきたからだろうか。5時過ぎに目覚めるのもそうか

▼鳴き声を聞いても、何の鳥か全く分からない。花の名も樹木の名も、詳しくなれたら暮らしは豊かになるだろうに。素養のなさを寝床で悔いていたら、鳴き声で鳥を探り当てられる便利なサイトをスマホで見つけた

▼音声サンプルを聞き比べた。声の主はおそらくオオルリだ。夏鳥として渡来する。姿は見えないが、雄は鮮やかな青い羽を持つという。きっと鳴き声はこれまでも耳に届いていた。ただ関心がなかった。それは聞こえないのと変わりない

▼アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した「関心領域」を新潟市の映画館で見た。ナチスのアウシュビッツ強制収容所と塀を挟んで暮らす所長家族の日常が描かれる。実在した所長をモデルとする

▼家族の屋敷では広い芝生の庭に花々が咲き、子どもたちがプールで歓声を上げる。妻は優雅に「夢に見た暮らし」を謳歌(おうか)する。塀の向こうからは絶えず叫び声と銃声が聞こえ、火葬場らしき煙突の黒煙が見える。100万人以上を虐殺したとされる収容所と満たされた家族の営み。隔絶が寒々しい

▼自分や家族にとって切実だと思えるか否かで、人間の五感は敏感にも鈍感にもなる。心の感度も変化する。あの朝、オオルリの声はたまたま聞こえた。聞こえない声、聞こえなかった声がどれほどあるのかを考えてみる。

朗読日報抄とは?