江戸時代の佐渡では金鉱石の採掘から製錬、小判の鋳造まで一貫生産されていた。その工程は長く、複雑だ。専門的な作業も多い。専門知識のない奉行らに説明する際は、作業の様子を描いた絵巻物が使われたという

▼現代で言えば、イラスト入りのパンフレットのようなものだろう。とはいえ、数多くの工程を描くから、巻物の尺は長くなる。中には全長が30メートルに及ぶものもある。広げて説明するのも大変だったはずだ。長くて複雑な工程を象徴するような資料といえる

▼時は流れ、遺構の価値を世界に発信しようという運動が起きた。その歩みもまた、長くて複雑だ。地元出身の研究者や郷土史家らが世界遺産登録に向けて会を設立したのは1997年。草の根の活動からの出発だった

▼関係者の粘り強い働きかけは徐々に行政を動かした。しかし国内推薦の手続きに入っても、国の審議会から「価値の説明を分かりやすく」などと注文が相次ぎ、この段階での「落選」は4度に及んだ。その後も新型ウイルス禍で選定が見送られるなど足踏みを繰り返した

▼曲折を経て、登録の可否を決める世界遺産委員会が7月に迫る。ただ委員会の諮問機関で、候補の価値を専門的な立場から検討する国際記念物遺跡会議は「登録」ではなく、補足説明を求める「情報照会」と勧告した

▼最後の最後で、もう一歩の努力を促された形だ。情報照会から登録にこぎ着けるケースも多いという。長くて複雑な登録絵巻の結末は光り輝くものであってほしい。

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