本県は人気漫画家を数多く輩出する漫画王国として知られる。背景については諸説ある。雪国のため冬にこたつで作業する「こたつ文化」が漫画づくりに適しているという見方がある。技術を学べる教育機関や行政主催の賞、全国有数の同人誌即売会があり、環境が整っているという声もある
▼新潟市で先日開かれたトークイベントで、本県は翻訳者も数多く出していると話題になった。優れた日本語翻訳作品に贈られる日本翻訳大賞は今年で第10回となり、これまで新潟市出身の斎藤真理子さんと工藤順(なお)さん、柏崎市出身の阿部大樹(だいじゅ)さんらが受賞している
▼イベントでは、3人が翻訳の苦労や醍醐味(だいごみ)を語った。方言をどう訳すか、検閲された作品で作家の意図をいかにくむか、悩みは尽きないという。一方で作品に没頭すると、次の1文の内容が予測できるほど、作家と一体になったように感じることもあるそうだ
▼3人は今、県外で暮らす。ふるさとへの思いも飛び交った。地元では、旧ソ連からの引き揚げ者や在日コリアンが周囲にいたという人もいた。故郷を思う時、ロシアや朝鮮半島の存在が身近にあったことを実感するという
▼本県出身の翻訳者が多いことについては「やった量が見えるところが雪かきに似ている」「こつこつ取り組む農業との類似性がある」との見立てが披露された
▼地道な作業をいとわない辛抱強さは、よく県民性に挙げられる。漫画家にも翻訳者にも求められる資質だろう。今後も県人の活躍が期待できる。