「地名は大地の表面に描かれたあぶり出しの暗号である。とおい時代の有機物の化石のように、太古の時間の意識の結晶である」。民俗学者で地名学者でもあった谷川健一さんの言葉である
▼県地名研究会会長を務めた長谷川勲さんが著書「にいがた地名考」で紹介していた。地名には、その土地の成り立ちや特質が反映されているという意味だろうか。土地に刻まれた記憶のようなものかもしれない
▼「新潟」という地名の由来は諸説ある。ただ新潟市周辺には、姿を消したものも含め「潟」と呼ばれる湿地が多い。二つの大河が海に注ぐ場所でもあり、水とゆかりが深く、土地の成り立ちに水が大きく関わっていることは間違いない
▼こうした経緯と関係しているのだろう。水分を多く含んだ砂質の地盤は強く揺さぶられると流動化して地盤沈下などを起こすことがある。液状化現象だ。1964年のきょう発生した新潟地震では県営アパートが横倒しになるなどし、広く知られるようになった
▼あれから60年。ことし元日に起きた能登半島地震では、再び液状化の被害が多発した。新潟という土地の記憶に液状化の爪痕がまた一つ刻まれてしまった。むろん被災した人にとっては現在進行形の難事である。暮らしを取り戻すための手だてをともに考えたい
▼今後の防災を検討するとき、その土地の記憶を抜きに考えることはできまい。地名は手がかりの一つに過ぎないが、自分が暮らす土地の性格を知ることは防災の第一歩かもしれない。