企業で旧姓を通称として使っている人が海外出張に出かけた。現地スタッフは企業内で浸透している通称でホテルを予約した。ところがチェックインの際、パスポートに記載された姓と異なるという理由で宿泊を拒否された

▼経団連がまとめた、旧姓使用によるトラブルの例だ。ほかにも、多くの金融機関で口座がつくれなかったり不動産登記ができなかったりと、デメリットが多数挙げられている。企業にとってはビジネス上のリスクになるという

▼「財界の総本山」とも呼ばれる経団連が、選択的夫婦別姓制度の早期実現を政府に求める提言を発表した。結婚後も希望すれば夫婦それぞれが生まれ持った姓を戸籍上の姓として名乗り続けられる。記者会見した十倉雅和会長は「国会でスピーディーに議論してほしい」と述べた

▼ビジネス界では選択的夫婦別姓の導入を求める動きが加速している。今春には、企業経営者の有志が法人役員ら千人を超える署名を添えて要望書を政府に提出した。署名にはサントリーホールディングスの新浪剛史社長らも名を連ねた

▼法相の諮問機関である法制審議会は1996年、選択的夫婦別姓制度の導入を含む民法改正を答申したが、国会に法案は提出されていない。県が昨年実施した県民意識調査では、法制化に「賛成」「どちらかといえば賛成」との回答が計6割を超えた

▼財界が導入を望むのは、企業の国際競争力に関わるからだろう。個人を大切にする社会はビジネスでも強みを発揮するはずだ。

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