山梨県での走行試験を見に行ってみた。リニアだ。来るぞ来るぞと身構えていると、疾風のように駆けていく。想像以上に時速500キロはすさまじい

▼上越新幹線の2倍近い速さといえる。完成すれば東京と大阪を67分で結ぶ。そこまで時間が縮まると首都圏と中京圏、近畿圏は一つの都市圏と考えることもできるらしい。日本の人口の半数を超える6600万人が暮らす巨大圏域になる

▼巨大化にどれほどの意味があるか分からないが、リニア中央新幹線を支える科学技術は面白そうだ。しかし山梨では憂いを聞いた。そこではすでにリニアのための高架橋が山へ延び、トンネルも掘られている。そのトンネル工事が水資源を巡る問題を引き起こしている疑いがある

▼70代の男性が背の高い草をかき分けながら案内してくれた。後ろから付いていくと川の音がする。だが目の前に現れたのは川でなく、斜面から噴き出す水だった。地下を流れる水の道がおかしくなったのか、思わぬ所から噴き出している

▼草刈りの鎌を手に進む男性の背には、問題を世間に伝えたいとの思いが見える。噴出の一方で、山の桃畑を潤していた川は枯れた。水を他から運んだり、井戸を掘ったりしてしのぐ。桃畑を守る人は言う。「川に水を返してほしい」

▼開業の時期は見通せない。10年先に一部開業しているかどうか。今後も山を貫く大きな工事が控えていると聞く。進むにつれ地元の嘆きや憤りが増えはしないか。科学技術の使い方を間違えてはいけない。

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