減り続ける書店の振興を図ろうと、国がプロジェクトチームを作ったのは3月だった。出版不況とされる。中でも雑誌類は26年連続で販売額を減らし、昨年は前年より8%落ち込んだ

▼そんな折、新たな月刊オピニオン誌「地平」が刊行された。県内でも今月から店頭に並んだ。「このご時世に定期雑誌の創刊は正気の沙汰ではないですね」。創刊号には事前契約した読者が、小所帯の出版社に応援メッセージを寄せていた

▼40代編集長は老舗の月刊誌「世界」で編集長を務めた人だ。創刊特集のテーマは「コトバの復興」。その冒頭、民主主義や人間同士の関係性の危機に立ち向かう言葉の力は、私たちの力だと記した。私たちとは、権力も財力も武力も持たない市井の人々にほかならない

▼特集に寄稿した一人が、パレスチナの詩人マフムード・ダルウィーシュさんの一節を取り上げていた。侵略者や暴君が恐れるのは、その時代の記憶を歌にして時に刻む言葉であると

▼先日の沖縄慰霊の日に18歳の高校生が詩を朗読した。「人は過ちを繰り返す」「世界はまだ繰り返してる」。そんな言葉に続けて、平和への祈りをつないでいく決意を口にしていた。大仰でなくていい。力みのない等身大のメッセージこそ伝わる

▼この夏のフジロックフェスティバルに出演予定のグリムスパンキーの曲に「話をしよう」がある。〈声なき声に勇気を/つながり合う勇気を/ただ思ってるだけじゃ/未来は何も変わらないから〉。言葉の底力を信じたい。

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