わが国の紙幣のルーツは1610年ごろに登場した「山田羽書(はがき)」とされる。伊勢商人が発行した銀貨の預かり証が、お金として使われるようになったという
▼かなり限定的に使われた紙幣だったようだが、時代が進むと藩が発行した「藩札」が広く流通するようになる。紙幣作りの技術は世界的にも優れていたようだ。用紙には偽造対策として、すかしの入ったものや着色されたものもあったという(植村峻「お札の文化史」)
▼現代も、偽札が出回るのを防ぐため、定期的にデザインが変更される。きょう発行の新紙幣にも最新の技術が注がれた。傾けると肖像が回転する「3Dホログラム」を世界に先駆けて採用。すかしは肖像の背景にも高精細の模様を加えた
▼肖像の人物も一新された。見慣れないお札に最初は戸惑うだろうか。今回の新紙幣発行は取り巻く状況が以前とはかなり異なる。世界的にキャッシュレス決済が広がる中である。現金を使わなくても支払いができる手段は随分増えた
▼経済産業省によると、昨年のキャッシュレス決済比率は39・3%。年々増えてはいるが、主要各国に比べると低い。韓国は9割、中国は8割を超える。私たちはまだまだ現金に依存しているらしい。新紙幣も一定の存在感を有することになるのか
▼対応設備の導入を余儀なくされるなど、準備に大わらわの向きもある。旧紙幣が使えなくなるとうそをつき、危機感をあおる詐欺も懸念されるという。新たなお札はやはり何かと注目を集めそうだ。