山がにぎわう季節だ。ここ10年ほどで、登山の光景が様変わりしたという。多くの人がスマートフォンを手にするようになった。ITの進展が登山を変えたらしい

▼以前なら地図を読み込み、正しくルートを選ぶ技術は必須だった。衛星利用測位システム(GPS)が搭載されたスマホの登場で、地図アプリ上で現在地を簡単に確認できるようになった。登山に関する情報もインターネット経由で楽に集められる

▼一方でITに頼ってばかりだと落とし穴もあるようだ。スマホをなくしたり、電池切れを起こしたりすると、途端に道しるべを失ったようになる。ネット上の情報は正しいとは限らないので、うのみにすると厳しい状況に追い込まれることもある

▼ITに頼りすぎたがゆえの事故やトラブルも増えている。山岳ガイドの木元康晴さんが2020年発行の著書「IT時代の山岳遭難」で指摘していた。今もその傾向は大きく変わってはいないのではないか

▼23年に全国で発生した山岳遭難は前年から111件増の3126件で、統計開始以降最も多かった。最多更新は2年連続で、新型ウイルス禍に伴う行動制限の緩和が大きな要素になったらしい。一方で、IT頼み一辺倒の登山者の存在も背景にありそうだ

▼ITは正しく使えば頼もしい味方になる。スマホが使えなくなった場合を想定し、あらかじめ地図を読めるようにしておくなどの準備も大切なのだろう。いくらITが発達しようとも、備えが肝心なのは変わらないはずだ。

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