再調査の末、いじめと自殺との因果関係が認定されたことは被害者側に寄り添った判断だといえる。なぜ最初の調査は「不明」としてしまったのか。悲劇を繰り返さぬよう、この検証も求めたい。
北海道旭川市で2021年、いじめを受けていた中学2年の広瀬爽彩(さあや)さんが凍死した問題で、市が設置した再調査委員会が先月、凍死は自殺とし、いじめとの因果関係を認定した。
当初、市教育委員会が設置した第三者委員会は22年、因果関係を「不明」と判断した。しかし、遺族の反発を受け、市が有識者による再調査委を設置した。
再調査委は、いじめを受けて心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、自尊感情の低下などが亡くなる直前まで続き、「いじめがなければ自殺は起こらなかった」と結論付けた。
注目したいのは、再調査を進める際に、交流サイト(SNS)の投稿内容から被害者の心理を分析する手法を取り入れたことだ。
遺族側から提供を受けた15カ月分、約4千件の発信履歴に「怖」「死」といった特定の単語がどれくらい出ているかなどを調べた。
亡くなる直前まで記載があり、痛ましい実相を浮かび上がらせた。孤立感や恐怖はいかばかりだったか。胸が張り裂けそうだ。
子どもによるSNSでの投稿が増えている現状を踏まえれば、今回の分析手法は、今後のいじめ調査でも活用できる可能性がある。
広瀬さんの母親は「娘に寄り添った対応をしていただいた」とした。再調査委が遺族との信頼関係を築いたことも評価したい。
「被害者の心身の苦痛」を基準に判断するとしたいじめ防止対策推進法の理念に立脚した対応だったといえよう。
再調査委は、学校と市教委については、いじめではなく加害生徒の問題行動と捉え、早く事態を終結させようとし、意図的にいじめとしなかったと断じた。
今回のように、当初の調査結果が遺族側の理解を得られないケースが全国で後を絶たない。
本県でも田上町の田上中で20年、当時1年の男子生徒がいじめを受けた問題で、調査に当たった町の第三者委はいじめと認定したものの、生徒がその後不登校になったことといじめとの因果関係については「不明」とした。
調査を不十分だとする生徒の両親の要望を受け、町は6月、再調査委を設置することを決めた。
時間がたつほど関係者の記憶も薄れる。当初調査の問題点をきちんと検証することが欠かせない。
文部科学省によると、22年度の小中高などのいじめ認知件数は68万件を超えており、依然として多いことに心が痛む。
いじめは人の尊厳を踏みにじる深刻な人権侵害だ。一人一人が肝に銘じねばならない。