外壁を覆うツタに天然芝、威容を誇るスコアボード…。8月に開場100周年を迎える甲子園球場の特色は数々ある。バックネット裏の記者席にも逸話がある

▼観客席の中にひな壇のように設けられている。内野席の一部を覆う銀傘の下にはあるが、吹きさらしだ。プロ野球や高校野球の担当記者は時に汗を滴らせ、時に寒さに震えながらプレーを追う

▼昭和の終わりごろ、その記者席と放送席を大改造する話が持ち上がった。防音を施し冷暖房の効いた、ガラス張りの豪華な部屋にするという。快適な環境で取材をしてもらおうとの球場側のサービスだった

▼ところが各社の反対に遭う。とりわけ、急先鋒(せんぽう)は高校野球担当の記者たちだった。いわく「甲子園の記者席は、スタンドとグラウンドの熱気とともにあるべきで、冷房がきき、防音効果のある部屋での取材なんて意味がない」(玉置通夫「一億八千万人の甲子園」)。改修の話は立ち消えになった

▼一方で、近年は酷暑への備えが注目されるようになった。この夏の大会は、一部の日程で試合を午前と夕方に分ける「2部制」が導入される。応援団が陣取るアルプススタンドまで銀傘を拡張する構想もある

▼各地で甲子園の切符を懸けた熱戦が続く。本県では今大会から、熱中症特別警戒アラートの対象日の試合が原則順延される。いくつもの暑さ対策が講じられ、甲子園の歴史に新たな1ページが加わる。節目の年の夏、熱気を共有した記者席からどんな原稿がつむがれるのだろう。

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