雪国には「冬ごもり」があった。大雪に閉ざされ、外仕事ができない。そんな厳冬期は家にこもり、わら仕事や機織りをした。「梅雨ごもり」という言葉もあるそうだ。長雨の時は外に出ず、軽作業をしたり、雨音に耳を澄ましたりする
▼雨どいから水が激しくはじけ出すと、心がざわつく。ひさしから滴がポトポトと落ちるくらいが落ち着く。滴が線を引く窓を眺めていたら、「トリクルダウン」という言葉が頭に浮かんだ
▼安倍晋三元首相の看板政策「アベノミクス」の一環で連呼された。雨などが「したたり落ちる」という英語である。富裕層の所得が増えれば富の一部は低所得層にも流れ落ち、社会を活性化するという理論だ
▼安倍政権時、株価は高騰し大企業や資本家は潤った。その富は生活に窮する人々に回ったのだろうか。岸田政権のいま、株式相場はバブル期を大きく超える高値を記録している
▼家計の金融資産は2023年度末で2199兆円と過去最大を更新した。前年比7%超の急増だ。上場企業の個人株主も10年連続で増え、延べ人数で7千万人を超えた。ただ日本証券業協会の推計では、22年度末の個人株主の実数は1500万人弱。総人口の約12%だから、まだ少数派だ
▼5月の実質賃金は前年同月から1・4%減った。26カ月も減少が続く。物価高の中、庶民は生活費を切り詰めている。膨れ上がる富は、一体どこにしたたり落ちているだろう。穴はないか。梅雨明け前に、この国の雨どいの総点検が必要では。