円安と資源高がこのまま進めば、輸入コストがさらに膨らみ、企業や国民へのしわ寄せが強まるのは避けられない。

 日本経済は、まだ新型コロナウイルス禍からの回復途上にある。政府は効果を慎重に見極めながら実効性のある対策を講じてほしい。

 外国為替市場で円安が止まらず、28日には一時1ドル=125円台を付け、約6年7カ月ぶりの円安ドル高水準となった。

 背景には、利上げ加速に乗り出す米国と、金融緩和で低金利が続く日本の間で金利差が広がり、不利な円が売られる状況が鮮明になっていることがある。

 さらに、日銀が複数日にわたって利回りを指定し国債を無制限に購入する「指し値オペ(公開市場操作)」を実施。大規模緩和を続ける強い姿勢を金融市場に示したことも要因だ。

 円安は企業が輸出で稼いだ外貨建ての収益や、海外企業から得る配当金などを押し上げる利点があるとされる。

 半面、海外から原料や資材を仕入れている企業は調達コストの増加が懸念され、県内企業も警戒を強めている。販売価格への転嫁は避けたくとも、企業努力には限界があろう。

 円安の影響もあって、輸入総額が膨らみ、1月の経常赤字は過去2番目の水準となった。ロシアのウクライナ侵攻も世界的な資源高をあおっている。

 国際決済銀行(BIS)によると、円の総合的な実力を示す「実質実効為替レート」は、50年前の1972年の水準まで落ち込んでいる。

 円の購買力低下は、資源を輸入に頼る日本にとって大きな逆風だ。今後の推移を注意深く見守らなければならない。

 原油や食料などの輸入価格上昇による家計の一段の負担増も気掛かりだ。消費の冷え込みなどで日本経済に深刻な影響を及ぼす恐れがある。

 切迫した状況を受け、岸田文雄首相は燃油や穀物などの物価上昇に対応する緊急対策の策定を指示した。

 原油高対策、食料の安定供給、中小企業の資金繰り支援、生活困窮者支援の4本柱とし、4月末をめどに取りまとめる。

 ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除など実現に向けハードルの高い項目が含まれており、議論は曲折も予想される。

 求めたいのはスピード感だ。情勢の変化に機動的に対応し、手を付けられるものは、すぐに取り組む姿勢が必要だろう。

 緊急対策では公的年金の減額分を穴埋めする5千円給付の与党案も当初検討されるはずだったが、白紙に戻された。夏の参院選を前に、野党や国民から「ばらまき」と疑問の声が上っており、見直しは当然だ。

 与党幹部には「消えた年金」で惨敗した2007年参院選など年金が争点になった苦い記憶があるのだろうが、必要なのは困窮者への抜本的な支援策だ。

 国民生活を守るために知恵を絞る。政治に課せられた責務を忘れないでほしい。