新聞は情報を伝えるメディアだが、読み終えても使い道がある。野菜を保存する際に包んだり、窓を拭くぞうきんの代わりに使ったり。細かくちぎって、絵の材料にする人もいる

▼奈良県の木村セツさんは夫を亡くした直後、90歳で新聞ちぎり絵を始めた。野菜や果物、料理など身の回りにあるものを、ちぎった新聞紙で描く。新聞に携わる者としてうれしくなり、新潟市北区で開かれている原画展に足を運んだ

▼素朴で優しい風合いの作品が並んでいた。ころんとした里芋は皮のけば立ちまで伝わってくる。皮に見立てたのは、紙面に載ったマツタケの写真。その軸の部分を使った。そう言われてもすぐにはピンとこないほど、皮のごわつきが見事に表現されていた

▼材料にするのはカラー印刷の写真や広告が多い。作品のイメージに合わせてちぎり、のりで貼り付ける。アップルパイの作品は皮の照り感がおいしそう。光沢に見えたのは白い文字列だった。「サイトもチェック」。広告の文句のようだ。言葉を伝える文字が貼り絵になると模様に変わる。くすりとさせられる

▼作品を孫がツイッター(現X)に投稿すると人気に火がついた。それまで趣味もなく、家業と家族の世話に尽くしてきた女性が手慰みとして始めたものが輝きを放つようになった。作品集の出版を手がけた里山社(福岡市)の清田麻衣子さんは「多くの人の希望や励ましになると感じた」と話す

▼木村さんは、ことし95歳になった。元気に創作を続けているという。

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