「息子がタンスの下に挟まって動けません 私の力では動きません」。ことし1月の能登半島地震の際、X(旧ツイッター)にこんな投稿があった。能登地方の住所も書いてあった
▼目にした人が地元警察に通報した。警察が駆けつけると住民は無事だった。「こんな情報は流していない」とも語った。元々の投稿は削除されたが、それを貼り付けた投稿はその後も確認され、拡散された状態になっていたという
▼能登半島地震についての調査では、交流サイト(SNS)利用者の42・7%が真偽不明な情報を見たと回答した。うち25・5%はその情報を拡散したという。総務省が2024年版の情報通信白書で報告している
▼現代人は日々、大量の偽情報に囲まれている。それをうのみにしたばかりに損をしたり、周囲を傷つけたりすることもある。有益な情報を教えてあげたいとの善意に基づく場合も、もとの情報が誤りなら拡散に手を貸したことになる。トランプ前米国大統領の暗殺未遂事件を巡っても大量の偽情報が拡散された
▼「疑わざる、これ病なり」。臨済宗の開祖、臨済禅師の言葉という。禅僧の有馬賴底(らいてい)さんが著書「真贋(しんがん)力」で紹介している。まずは一度疑ってみる。その情報の真贋について自問自答してみる。そんな姿勢が偽情報にだまされないための第一歩なのだろう
▼総務省の有識者会議は、恒久的な対策の制度化に向けた案をまとめた。関連法の整備などを進める。そういう時代を生きていると自覚せざるを得ない。