十日町市では「大地の芸術祭」が開催中だ。地域ぐるみの芸術イベントで全国的に有名になったが、かつては「石彫のまち」として知られていた

▼2014年までの20年間、毎年夏になると国内外から作家たちがやって来た。汗まみれでのみを打ち込む作家を、市民は見守り励ました。20年間で86点が完成し、商店街や公共施設、広場に設置された。人物や動物、昆虫…さまざまな造形は、まちに溶け込んで景観の一部になった

▼市内にある「星と森の詩美術館」は今も、参加した作家の作品展を開いている。現在は千葉県在住の酒井良さん(73)の石彫を展示中だ。その作風を絵画に例えるなら抽象画だろうか。「鳥」という名の付く4点には頭もなければ羽もない。素人目には鳥に見えない

▼酒井さんのギャラリートークを聞きに行った。「星と森の詩美術館という名前から豊かな自然とそこに生きるものの生命力が頭に浮かんだ。自由自在に生きるものの総称として『鳥』を選んだ」という。うーん、難しい

▼制作時の気持ちを聞いた時は、すとんと腹に落ちた。「右手に鉄のみ、左手にハンマーを持って、思い切り石をたたく。いい作品を作ろうというよりも、石に向き合っていること自体が楽しい」。いかにも幸せそうな表情だった

▼芸術に言葉はいらないという考え方がある。作品とひたすら向き合えば、何かが伝わってくるかもしれない。一方で、作品と言葉が固く結び付いて心に残ることもある。どちらも芸術の面白さであろう。

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