関川村にある豪農の館「渡邉邸」で抹茶をいただく機会があった。開館時間が夜まで延長され、普段は非公開の茶室にも入ることができた。夕暮れ時の庭園を眺めつつ、一服をじっくりと味わった
▼関川村文化協会が「関川村民ゆかた茶会」と銘打って開催し、今年で31回を数える。お点前や給仕をする人は、浴衣姿でお茶を振る舞う。県内で真夏の茶会は珍しい。涼を感じながら気軽に参加してもらおうとの趣向だ
▼村内外から毎回のように楽しみにして足を運ぶ人が多いという。土間から続く茶の間では、大勢の客がにぎやかに交流の輪を広げていた
▼茶室の一つに入ると、亭主を務める阿部輝子さん(76)が柔らかな笑顔で迎えてくれた。茶道具などを紹介し、静かに言葉を継いだ。「実は、この茶会も今年でやめようと思いまして」。昨年は猛暑で難儀した。茶席の担当者から「これで最後にしましょう」との意見が出たという
▼阿部さんは20代後半で茶道を始めた。ゆかた茶会には初回から携わった。当初は経験不足もあって「苦痛だった」が、多くの人に励まされ力になったと感謝する。茶会の参加者からは「終わるのは残念」との声が相次いだ
▼高齢化や価値観の多様化で、茶道に限らず伝統文化の継承が難しくなっている。ウイルス禍も立ちはだかった。それでも地域に根付いた文化がなくなるのは惜しい。厳しい環境の中ではあるが、新たな形を見いだすなどして将来につないでいけないか。文化は地域の力を映す鏡でもある。