80歳でエベレストに登頂した冒険家の三浦雄一郎さんは2019年、南米大陸最高峰のアコンカグアに挑んだ。このとき86歳。頂上まで900メートル余の6千メートル地点まで到達したが、同行した医師がこれ以上は危険と判断し登頂を断念した
▼「頂上まで行けるという自信があったが、医師の判断に従うことにした」。直後、無念の思いをこう語った。年齢を重ねてもなお挑戦を続ける姿に世間は拍手を送ったが、内心は相当悔しかったらしい。後に振り返っている。「勇気ある撤退と言われたけれど、僕としては不本意。不平、不満たらたらでした」
▼この人の胸中はどうだろう。米大統領選からの撤退を表明したバイデン氏だ。米大統領としては史上最高齢の81歳。宿敵トランプ氏との討論会では言葉に詰まり、国際会議ではウクライナのゼレンスキー大統領をロシアのプーチン大統領と紹介してしまった
▼職務執行能力を疑問視する声が高まったが、トランプ氏に対抗できるのは自分しかいないと大統領選に挑む姿勢を崩さなかった。それでも、身内の民主党内から撤退論が高まった。もはや出馬を断念せざるを得なかった
▼トランプ氏を打倒するには、このタイミングで候補者を交代するしかないと判断したのか。盟友のオバマ元大統領は「自分自身よりも国民の利益を優先した」と決断をたたえた。「勇気ある撤退」と言いたいのだろう
▼本人がそう思っているかは分からない。この決断が吉と出るか凶と出るか。答えは11月の選挙で出る。