この夏、土用の丑(うし)の日は7月24日と8月5日の2回。ウナギ好きにはいい年だ。学生時代、蒲(かば)焼きに泣かされたことがある。寮生活の同室者は九州出身で実家が養鰻(ようまん)業を営んでいた。100人近い寮生の多くは丑の日前後は夏休みで帰省中だった
▼そこに、くだんの実家から「寮生の皆さまへ」と大量の蒲焼きが届いた。残った寮生では食べきれない。寮の管理人家族に分けても数十匹分残った。わずか数人で食べに食べた。好物の大食いも度を超せば後悔する。満腹感がつらくて涙が出た
▼そんな経験をしても夏の丑の日は少しぜいたくをしたくなる。ただ成魚の国内供給量は大きく減っている。輸入も含めピークだった2000年の約16万トンから、いまは5万トンほど。高値が付くわけだ
▼先日、水産庁から朗報が届いた。人工ふ化や飼料の研究が進み、稚魚1匹当たりの経費が1800円程度まで下がった。この3年ほどでコストを半減できた。天然の稚魚は現在180円から600円程度だから、商業化に近づいた
▼今の養殖は天然の稚魚を捕獲して育てているが、稚魚の減少が続く。国は50年までに全て人工的に受精させて生産した稚魚に切り替える目標を掲げている。研究が順調に進めば、懐を気にせず舌鼓を打てる日が来るかもしれない
▼ニホンウナギは絶滅危惧種に指定されている。トキと同様、水辺の生物多様性を計る指標種という。蒲焼きの値段ばかりに目が行って、ウナギがすめる環境の保全をおろそかにしてはなるまい。