子どもの頃、夏休みの宿題で頭が痛かったのは自由研究だ。特技もなければ、ひらめきもない。家族で出かけることもないから特別な思い出もない。モヤモヤした思いで過ごしていた

▼毎年のように植物標本を提出していた友人がうらやましかった。植物採集のために家族旅行に行くのが恒例で、休み明けには珍しい草花を貼り付けた標本の台紙を抱えて学校に来た。台紙は新聞紙に挟まれていた

▼標本の保存には、吸湿性に優れた新聞紙がうってつけなのだという。仕事で訪れた高知県の県立牧野植物園で、そう聞いた。NHKの連続テレビ小説「らんまん」で主人公のモデルとなった植物学者、牧野富太郎ゆかりの植物園である

▼植物の研究で全国を行脚した牧野の元に、各地から多くの標本が送られてきたことはドラマの中でも描かれていた。驚いたのは、標本を挟んでいた各地の古新聞が今も大切に保管されていたことだ。本紙の前身の一つ「新潟新聞」の1904(明治37)年の紙面もあった

▼植物園にはミャンマーの植物図鑑づくりにも取り組む職員もいて、海外の事情を聞かせてくれた。外国でも標本の保存には新聞紙が重宝される。古新聞なら大抵どこでもタダで手に入るからだ。ただ、ミャンマーでは難しい。軍事政権下では新聞発行が制限されるのだという

▼新聞紙面は世相を映し出すが、入手しやすさもお国柄が反映される。わが国では新聞をいつでも手に取れる。植物を愛(め)でることもできる。そんな幸せをかみしめる。

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