その姿は「異様」といえる。だが、形成の歴史や経緯を知れば「威容」と映る。「偉容」という字を当ててもいい。佐渡金山を象徴する「道遊の割戸」である
▼山の頂が真っ二つに割れている。割れ目の幅は最大30メートル、深さは74メートル。金を求める人々が手作業で掘り進んだ。佐渡の鉱脈は地表に近いほど多くの金が含まれるため、地表から少しずつ掘り下げていった
▼1600年頃から開発されたと伝わる。およそ1世紀かけて掘り尽くし、その後は地下深くに坑道を掘るようになった。機械などない時代、簡単な道具だけでどれほどの岩を削り、運び出したのだろう。苦難を想像すると気が遠くなる
▼時を経て、苦難の果てに朗報が届いた。佐渡金山の世界遺産登録がついに実現した。研究者や住民有志が草の根で運動を始めたのが1997年。国内候補として推薦されるまで足踏みを繰り返し、大詰めの段階を迎えても追加説明などを求められた
▼苦労して、苦労して。それだけに喜びもひとしおだ。新たな歴史の扉がようやく開かれたといえようか。世界遺産は人類共通の財産である。往時の佐渡では人の手だけで硬い岩の中から金を取り出した。質・量ともに他に例を見ない水準だった。世界に認められたその価値を、広く共有していきたい
▼佐渡金山への注目はいやが上にも高まるだろう。一過性のブームでなく、ずっと輝きを放つものであってほしい。息の長い、地道な取り組みを続けていかねば。先人が手作業で掘り進めたように。