青い芝生のピッチ上で選手たちが片膝をつき、強いまなざしで前を向いた。2021年の東京五輪でサッカー女子の試合前に見られた光景だ。人種差別への抗議を示す意思表明だった。日本代表「なでしこジャパン」も同調した
▼16年に米国のプロフットボール選手が始めた行動がスポーツ界に広がった。米国では白人警官による黒人への暴力が社会問題化していた。東京五輪の前年には「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」をスローガンに掲げた大きな抗議運動に発展した
▼世界には、いまだに多くの差別がある。日本も例外ではない。被差別部落の人々が差別をなくそうと1922年に「全国水平社」を設立してから100年以上たつが、根本的な解決には至っていない
▼むしろ新たな問題が持ち上がっている。被差別部落の記事や写真、動画をウェブサイトに掲載する動きが顕在化した。本県にもターゲットにされた地域がいくつもある
▼今年1月、住民が記事の削除などを求める裁判を新潟地裁に起こした。原告の女性は「子や孫の時代には差別をなくそうと活動してきたが、一向になくならない。世の中どうなっているのか」と嘆く
▼全ての人はいかなる差別をも受けることなく、権利と自由とを享有できる-。このようにうたった世界人権宣言は1948年、パリでの国連総会で採択された。その地でいま、五輪が開かれている。人々が平等な立場で競うのがスポーツだ。人権について考える契機にもならないか。