人が住まなくなって今夏で50年になる。現在の新潟市西蒲区角海浜は、重税に耐えかねた能登からの移住者らが興したムラだったとされる。その歴史を伝える企画展が同区の巻郷土資料館で開かれている

▼地元を見守ってきた観音像も展示されている。海の上を光の玉となって能登から渡ってきたという伝承から「光観音」と呼ばれる。三方を山に囲まれており、地名は「囲(かくむ)」が由来との説がある。残る一方は海に面し、稲作には向かない土地だった。それでも移住者にとっては光があふれていたのか

▼住民は毒消し売りなどで生計を立てていたが「マクリダシ」といわれた海岸浸食が絶えなかった。家を奪われることもあり、去る人が増えた。江戸時代に250戸を数えた集落は、1960年代末には9戸にまで減った

▼そんな時代に持ち上がったのが、東北電力による原発建設計画だった。推進する立場の人々にとって原発は、過疎地に活力をもたらす「光」に見えたのかもしれない。一方で、激しい反対運動も起きた

▼角海浜があった旧巻町では、賛否を巡って町内が二分される事態になった。計画の是非を問う住民投票が実施されたのは28年前のきょう、96年8月4日だった。反対票が6割を占めた。後年、計画は白紙撤回に追い込まれた

▼かつての毒消し売りのムラはいま、やぶで覆われ、往時の面影はない。東北電は原発建設を予定していた土地の大半を現在も所有しているが、今後については沈黙を守ったままである。

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