受賞後の記者会見で記念撮影する(左から)霧島れいかさん、濱口竜介監督、西島秀俊さん、岡田将生さん(共同)
受賞後の記者会見で記念撮影する(左から)霧島れいかさん、濱口竜介監督、西島秀俊さん、岡田将生さん(共同)

 映画が発したメッセージが国や言葉の違いを超えて人々の胸に届いたのは、苦境にあって感じる切なさや悲しみが世界の人々に共通しているからに違いない。

 映画界最高の栄誉とされる米アカデミー賞で、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞に輝いた。43歳の気鋭の監督が遂げた快挙だ。

 日本映画の同賞受賞は2009年の滝田洋二郎監督の「おくりびと」以来となる。外国語映画賞などと呼ばれた時代を含めると、日本映画では5度目となる。

 作品賞、監督賞、脚色賞にもノミネートされた。日本映画が最重要の作品賞で候補入りしたのは初めてで、外国語映画の枠にとどまらず注目を集めた。

 日本映画界を活気づけ、勇気を与える偉業といえよう。後に続く若手監督らの励みになるものだ。

 映画は村上春樹さんの短編小説が原作で、妻を亡くした演出家の主人公が専属運転手の女性と出会い、人々との対話を通して自らを見つめ直す喪失と再生の物語だ。

 主人公を西島秀俊さん、妻を新潟市出身の霧島れいかさんが演じた。上越市や糸魚川市の風景も登場し本県にとって親近感が湧く。

 演出家は愛妻を突然の病で失う。妻は亡くなる直前に、演出家に対して何かを打ち明けるそぶりを見せていたが、結局秘密は明かされないままとなった。

 演出家は2年後、心に傷を抱えたまま参加した演劇祭で、重い過去を背負った運転手の女性と出会う。女性が運転する演出家の赤い愛車の中での対話を通じて、心の傷や深い悲しみに向き合う。

 新型ウイルス禍で多くの人々が孤独や喪失感を深めた。そうした中だからこそ、真摯(しんし)に内面を見つめる主人公の姿は、国を超えて共感を呼んだのではないか。

 自らと対峙(たいじ)して悲しみや苦しさを受け止め、壁を越えた先に、生きる希望が見えてくる。

 約3時間の長編で展開は静かだが、見る側を飽きさせないのは俳優の自然な演技を引き出す濱口監督独自の演出法だろう。

 主人公が劇中で手掛ける舞台では、さまざまな言語や手話が使われ、異彩を放つ。台詞が次第に俳優自身の感情を伴った言葉となる過程を浮かび上がらせる。

 その様子が、リハーサルで徹底して台本を棒読みし、本番だけ感情を込める濱口監督の演出法を追体験させているのも面白い。

 「本当に他人を見たいと望むなら、自分自身を深くまっすぐ見つめるしかないんです」という原作にもある台詞は、主人公だけでなく、見ている側の私たち一人一人に向けられたものではないか。

 最近のアカデミー賞はアジア系作品の躍進がめざましく、社会の多様性を反映している。その点でも言葉を超えた世界を表したドライブ・マイ・カーが受賞した意義はとても大きい。