国際情勢は緊迫度が増し、核の脅威が高まっている。いま一度、核兵器がもたらした筆舌に尽くし難い惨状に思いを巡らせたい。

 広島に原爆が投下されてから79年になる日を迎えた。広島市では6日に、長崎市でも投下された9日に、それぞれ式典が開かれる。

 核兵器のない世界の実現に向け、決意を新たにしたい。犠牲者を悼むとともに、唯一の戦争被爆国として、平和の尊さを世界へ発信していきたい。

 昨年の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で、岸田文雄首相は「核軍縮広島ビジョン」を発表し、「核兵器のない世界」実現への理想を共有したと誇った。

 しかし世界を見渡せば、その後も核軍縮の機運は乏しい。

 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、世界の核弾頭総数(推計)は1月時点で、1万2121発だった。昨年からは微減したが、運用可能なものや実戦用に配備された核弾頭は増えている。

 核保有国が核兵器開発を進め、核抑止力への依存を深めていることは憂慮せざるを得ない。

 中国は「自衛のため」として昨年から90発増やし、500発となった。北朝鮮は20発増の約50発としている。ロシアの軍事協力で、今後も増加すると予想される。

 ロシアは5月から、ウクライナ侵攻拠点などで戦術核兵器の使用を想定した演習を行い、「核の威嚇」を強めている。

 日本世論調査会の平和に関する調査では、今後10年以内に世界のどこかで核兵器が戦争に使われる可能性について、「大いにある」「ある程度ある」との回答が合わせて72%だった。

 昨年より8ポイント増え、国民が危機感を抱いていることが表れた。

 日本は7月、米国が核を含む戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」の強化に合意した。米国の「核の傘」を軸にした抑止力強化をアピールする方針に転換したが、効果は見通せず、軍拡競争が進むリスクをはらむ。

 核の傘に守られることが、核兵器のない世界を目指す動きと矛盾することは明白といえる。

 広島や長崎の被爆者は「核兵器廃絶に逆行する動きだ」と批判する。核の傘に頼らずに、外交努力で平和を築いていくことを政府に求めているのは、当然だ。

 全国の被爆者は3月末現在で約10万7千人と、前年より約7千人減り、最少を更新した。平均年齢は85・58歳で高齢化が進み、被爆体験継承が課題になっている。

 一瞬にして多くの人命を失わせる核兵器がもたらす壊滅的な被害や、原爆が終生、人体に影響を与える恐ろしさを伝えていくことが、被爆国である日本の役割だ。

 国際社会の先頭に立ち核廃絶へ向けて取り組んでいくことを、誓う日としたい。