古代オリンピックの初期は約190メートルの短距離走だけだった。それが今回のパリ五輪は32競技、329種目に膨らんだ。1900年と24年に続いて100年ぶり3回目のパリ開催である

▼開会式では、セーヌ川の船上から各国の選手団が手を振る姿が話題になった。「新時代の五輪」のうたい文句を具現化するような演出だった。水質を改善し、泳げるようになったというセーヌ川は、トライアスロンの会場になることでも注目を集めた

▼およそ1世紀にわたって遊泳禁止だったが、環境汚染の克服もアピールしたかったのだろう。しかし出場した選手が体調を崩したり、水質が基準に達せず公式練習が中止されたりする事態も起きた

▼124年前の大会ではゴルフとテニスに女性が初参加した。今大会は選手の男女同数を実現したそうだ。公平と平等の精神を訴えた「近代五輪の父」クーベルタンの祖国の面目躍如だろうか

▼五輪は時代の価値観や流行を映す鏡かもしれない。2021年の東京大会は「アーバンスポーツ元年」ともいわれた。スケートボードや自転車BMXなど、若者らが都市を舞台に楽しむスポーツを競技として採用した。今大会では、音楽に合わせて即興でダンスを繰り出すブレイキンが導入された

▼競技の採用には、五輪人気の低迷に危機感を抱く国際オリンピック委員会(IOC)の意向が強く働く。政治の影や利権の構図も見え隠れし、聖火を揺らす。時代を映し出す五輪は、この先どんな景色を見せるのだろう。

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