愛の画家、色彩の魔術師とされる20世紀屈指のアーティストである。思わぬインスピレーションが湧いてくるかもしれない。そんな期待を抱いて新潟市新津美術館で開催中のシャガール展を訪ねた

▼約280の版画作品群を2時間近くかけて鑑賞した。白状すれば、少しその気になって作品に見入り、分かったふうな顔をして帰ってきたに過ぎない。芸術的素養のなさが恨めしい

▼画風は幻想的だが、シャガールいわく「幻想ではなく現実。私はリアリストである」。その言葉を手がかりに作品に向かうが、理解が及ばない。横たわる裸の人や浮遊する人は何を意味してる? 牛や魚がなんでここに?

▼シャガールのユダヤ人としての民族性や宗教性、二つの世界大戦を経た時代背景にも目を向けるが、恐らく、頭で考えても分からないのだ。そう気付く。シャガールの言葉を引く。「心の内から何かを創造した時は、たいていうまくいく。頭を使ってしまうと、たいてい失敗に終わる」。見る側にも言えるのか

▼アートディレクターの結城昌子さんの著書に諭される。「絵を見るということは、知らず知らずのうちに作品との間にエネルギーの交感が生まれること」。作品のメッセージを理解してやろうなどと気負うものではないのだろう

▼コスパ(費用対効果)やタイパ(時間対効果)ばかりを優先しがちな日常。絵画や音楽に浸れる余白のような時間が持てたらいい。頭を柔らかく。ご託は抜きに。「なんとなくいいね」。それで十分か。

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