この夏のお盆は、帰省者が昨年以上になるようだ。ウイルス禍や台風には気が抜けないが、久しぶりに家族そろって墓参りをする光景もありそうだ

▼〈暑かろう淋(さび)しかろうと墓洗う〉大野初枝。炎天の日差しは年ごとに強くなるばかりだ。ジャブジャブと水をかけ、少し冷えた墓石をなでる。祖父母や親たち、亡くなった先祖の俗名、享年の数え年…。刻まれた文字をなぞり、往時の笑顔をしのぶ人もいよう

▼昭和の後半は、70歳代で天寿を全うすれば大往生ともいわれた。2023年の日本人の平均寿命は女性が87歳台で世界1位、男性は6年短い81歳台で5位である。新型ウイルス感染症で国内は4年前から多くの人が亡くなった。その影響で、寿命が延びたのは3年ぶりだ

▼寿命の推移をたどれば伝染病に加え、戦争の影響がいかに大きかったかが分かる。1947年は男性が50歳台、女性は53歳台で戦禍の影を引きずっていた。それがわずか5年後には出生数も急増し、平均寿命は男女ともに60歳前後と約10年も延びた

▼いま、本県と同程度の人口のパレスチナ自治区ガザでは戦闘開始から10カ月で死者が4万人に迫り、児童・生徒は1万人を超えた。一方、ロシアに侵攻されたウクライナでは、今年上半期の死亡者は戦闘の犠牲者を含め約25万人。出生数の3倍にも上った

▼戦地の平均寿命は日々短くなる。世を去った人々の弔いは満足にできているだろうか。このお盆の墓参りは遠い戦地の犠牲者にも思いをはせ、手を合わせたい。

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