のどかな地域にある実家の床をムカデがはっていた。どこから入ったのか。「百足」と書くように多くの足があり、かまれるとひどく痛むことから苦手な人も多い

▼実際のところ足は100本ではなく、15対から191対に及ぶ種もあるという。肉食で虫や小動物を捕獲する。後退しない習性が戦国時代には強さの象徴とされ、武具などに描かれた

▼伝説に登場することも多い。平安時代、武勇に長じた藤原秀郷(ひでさと)は大ムカデを退治したという。お金を意味する「お足」が多いとして、商売繁盛や金運上昇の縁起物として扱われることもある

▼その姿を鉱脈に見立て、鉱山では信仰の対象になった。佐渡市の相川地区には百足山大権現があり、社がある山には大ムカデが出たという伝承も残る。相川郷土博物館にはムカデが描かれた絵馬や扉が所蔵されている

▼相川地区の大山祇神社には神事芸能「やわらぎ」が伝わる。金山の坑夫が硬い岩盤を掘りながら口ずさんだ歌が披露される。歌詞には鉱脈を意味する「百足」が出てくる。山の神の心を和ませ、岩がやわらぐよう祈った。哀調に坑夫のやるせない気持ちが表れている

▼四半世紀の悲願がかない「佐渡島(さど)の金山」が世界遺産に登録された。活性化の追い風にと期待が膨らむが、一過性のにぎわいに終わってはなるまい。佐渡には金山をはじめ、多様な文化や観光資源がある。観光地としての潜在能力は高い。ムカデにあやかり福をかき込む好機にしたい。知恵が求められるのはこれからだ。

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