「登竜門」。困難だがそこを突破すれば立身出世ができる関門と辞書にある。中国の黄河にある急流で、そこをさかのぼったコイは竜と化す。そんな伝説からこの言葉が生まれた
▼先に閉幕したパリ五輪に出場した選手は、ひのき舞台に立つため血のにじむような努力を続けてきたはずだ。彼らにとっては参加資格を得る全国選手権などが登竜門かもしれない。文学なら芥川賞や直木賞だろうか
▼夢や自己実現への道のりは人それぞれ。目標や水準に応じて、さまざまな登竜門があるはずだ。そうした存在は文化の豊かさを示してくれる。新潟市西区に開館して30年になる雪梁舎美術館が主催する公募展「フィレンツェ賞展」も、知る人ぞ知る若手画家の登竜門だ
▼第26回の今年は、昨年より82点多い245点の応募があった。この公募展の魅力は、上位受賞者2人がルネサンス文化発祥の地であるイタリア・フィレンツェに滞在できる点にあるらしい。提携先の国立美術学校で学びつつ、制作支援も受けられるという
▼今回大賞を受賞した神奈川県の渡辺愛子さんは「海外で育ててくれる公募展はほかに知らない。古典技法のテンペラ画を学ぶのが楽しみ」と喜ぶ。2年前には伝統の登竜門「上野の森美術館大賞展」で大賞に輝いた。既に将来を約束されたような逸材だ
▼入選作は雪梁舎で公開中だが、毎年秋になると東京都美術館で巡回展が開かれるのもユニークだ。全国の精鋭が競う登竜門が、中央ではなく地方の新潟にある幸運を思う。