蒸し暑い夏の夕暮れ、ネムノキの花を目にすると、ひととき汗が引くように感じる。淡いピンクの刷毛(はけ)のような花は優美で、上品なあでやかさがある。芭蕉の句が有名だ。〈象潟(きさかた)や雨に西施(せいし)がねぶの花〉
▼「合歓(ねむ)の花」は夏の季語。現在の秋田県である羽後の国の象潟に立ち寄った際の作だ。雨にぬれる花と、古代中国の絶世の美女である西施を重ねた。花びらのように見えるのは、糸のように細長く伸びたおしべである。長いまつげのようでもあり、雨に打たれた姿はどこか物憂げであっただろう
▼葉は夜になると、内側に折りたたまれて閉じてしまう。木が眠ったように見えることからネムノキの名がついたという。同じマメ科の仲間には、触れると葉が閉じるオジギソウもいる。周囲の環境の変化に敏感なのだろうか
▼ネムノキを使ったユニークな研究もある。地震を予知しようという試みだ。地震の前に地中で何か変化があれば、ネムノキもその変化を感じるのではないか。そんな発想から、枝に電極を埋め込み、木の中の電位変化を分析した
▼1983年の日本海中部地震の際には事前に異常電位が起き、電位変化は地震後に急に弱まったという観測結果が得られた。いつか、地震の予知に役立つ日が訪れればありがたい
▼この季節、あの趣のある花は、川べりや道路沿いなど身近な場所で見ることができる。荒れ地や、やせた土地でも成長できる強さも持っているそうだ。地震の到来や環境の変化をつぶさに教えてくれないものか。