残された時間は少なく、このままでは取り返しのつかない深刻な影響が人間社会や自然界に及ぶ恐れが大きい。各国は危機感を共有し、急速に進む温暖化を食い止めなくてはならない。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、温室効果ガスの排出削減策に関する報告書をまとめた。
産業革命前と比べた気温上昇の幅を1・5度に抑えるためには、世界の温室効果ガス排出量のピークを遅くとも2025年以前に迎える必要があると指摘した。
一方で、政策強化がなければ排出量は25年以降も増加し、「今世紀末までに3・2度の温暖化をもたらす」と強調した。
温室効果ガスの排出が増加している状況に警鐘を鳴らし、国際社会に対策の強化を促している。科学者の警告を重く受け止めたい。
IPCCが2月にまとめた別の報告書では、世界の約33億~36億人が水害や高温などの影響を受けやすい状況にあると指摘した。
生態系についても非常に高い絶滅リスクに直面すると予測した。南極では氷が解け、ペンギンの生息域にも影響が出ている(写真・AP=共同)。
温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、気温上昇を1・5度に抑えることを目指しているが、各国が現在掲げる温室効果ガスの削減目標が全て実行されても実現は難しいとされる。
気温の上昇を抑えるには削減目標の大幅引き上げと、その道筋を明確に示すことが欠かせない。
IPCCは今回、削減策の具体例を提示し、国や企業が取り組むことで気温の上昇を抑えられると強調した。
エネルギー部門では、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーを普及させ、化石燃料の使用を大幅削減することが重要だとした。
電気自動車(EV)や省エネ住宅の普及も欠かせない。
温暖化対策は待ったなしの状況だが、気掛かりなのはロシアによるウクライナ侵攻の影響だ。
ロシアへの経済制裁によりエネルギー供給が不安定になっているために、各国の温暖化への関心が薄れる恐れがある。
国際社会は早期停戦に向けて結束すると同時に、脱炭素の動きを停滞させてはならない。
日本政府は30年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する方針を掲げている。
しかし、排出量が多い石炭火力の利用を続けるとしている。環境団体は削減目標の達成は危ういとして全廃を求めている。
発電時に二酸化炭素を排出しない原発については再稼働を求める声が与党や経済界にあるが、安全面での住民の不安は根強い。再稼働議論は慎重であるべきだ。
今年11月にエジプトで開かれる国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で、各国はさらなる対策を持ち寄ることになっている。
日本はそれまでに削減目標の引き上げなどを検討し、実効性ある政策を打ち出してもらいたい。

