入社した頃、記事の切り抜きやイベント案内などの短い原稿を書くのは新人が担当した。「これも大事な仕事。世の中に雑用という仕事はない」と教えられた。そんな風潮は、かなり薄まっただろうか。「クリエーティブな仕事がしたい」と主張する若い世代も増えた
▼AI(人工知能)の存在が一般的になってからというもの、雑用や単純作業をAIにやらせれば、人間は創造的な仕事に専心できるといった声が高まった。社会の生産性の向上も期待できるという
▼でもクリエーティブな仕事って、そんなに大事なんだろうか? コピーライターの糸井重里さんが「手編みのセーター」を例に挙げて疑問を呈していた。セーターを編むのは単純作業だが、編む行為そのものが楽しかったり、着る人が「手編みであること」に価値を感じたりする
▼単純であっても、その人にとってかけがえのない作業がある。そうした作業や労働を「みんなが軽んじすぎていると思うのです」。糸井さんはこんなふうに書いていた。(森川幸人編著「僕らのAI論」)
▼わが新人時代を振り返ると、当時は過去記事を検索できるデータベースなどなかったから、切り抜きは職場の貴重な資料になっていた。イベント案内を出すと主催者から感謝のお言葉をいただくこともよくあった。意味のある作業だったと思う
▼創造的な仕事の方が単純作業より価値があると決めつけてはなるまい。一つ一つの仕事に意味を見つけるかどうかは、手がける人次第なのだろう。