村を通るJR米坂線は不通が続く。路線バスを全廃する可能性も浮上した関川村に、朗報が届いた。34回を重ねる「大したもん蛇まつり」にサントリー地域文化賞が贈られることになった。全国屈指のユニークさが評価された
▼竹とわらで作る大蛇は村の伝説に基づく。全長80メートル超はギネス記録に認定される。村内の全54集落が制作を分担し、450人もの担ぎ手で地域を練り歩く。人口5千人に満たない小さな村の底力を見るようで、すがすがしい
▼今年8月のまつり当日は相当の蒸し暑さだった。「きつい」「やばい」。弱音を漏らす担ぎ手も表情は明るい。大蛇は収穫期を控えた田んぼ脇をすり抜け、荒川を見下ろす温泉橋を渡る。行列が長いので「わっしょい」の掛け声が輪唱に聞こえる
▼まつりの始まりはまだ昭和だった1988年。村の若者らが集う「ふるさと塾」の一員として発案した須貝正春さん(71)は、当時30代だった。「できっこないよ」「うちの集落は協力しねえ」。あまりに大がかりな企画に住民から不満や懐疑の声が噴出したという
▼須貝さんらはへこたれなかった。住民を巻き込みながら一つ一つ障壁を突破した。勢いだろうか。情熱だったのか。「この地で生きるための心の支え合いを形にする作業だった」と振り返る
▼生みの苦しみが名物行事となる礎を強くした。絶対に実現すると信じ抜き、ゼロからまつりを創り出した当時の村民のエネルギーに敬服する。これからの世代に引き継がれていくことを願う。
