ある人が風邪をひいてしまった。医者にかかるために、利き手に包帯を巻き始めた。風邪なのになぜ、けがもしていない手に包帯をして病院に行くのか
▼病院では問診票を書かされることがある。その人は文字を読むことも、書くこともできなかった。利き手に包帯をしてけがをしたふりをすれば、受付や看護師が聞き取ってくれる。読み書きができないという「告白」をせずに済む
▼別のある人は買い物をする時に必ず紙のお札を出すという。小銭の計算ができずに会計でまごついてしまうからだ。紙幣を出せば自分で計算をしなくてもスムーズに買い物ができる
▼さまざまな事情で義務教育を十分に受けられなかった人がいる。夜間中学はそんな人に学びの場を提供し、不安なく暮らすための大切な役割がある。国の後押しもあり全国で設置が進むが、本県にはない
▼県内設置を求める学習会が先日、新発田市で開かれた。教育関係者のほか高校生の姿もあった。岡山市に本部を置く基礎教育保障研究所の城之内庸仁理事長は講演で「学ぶことは生きること。学習権を保障しなければ生存権は保障されない」と指摘した
▼4年前の国勢調査では本県には最終学歴が小学校の人が3万5017人、小中の在学歴がないか小学校を中退した「未就学者」も1137人いる。夜間中学は「社会のばんそうこう」ともいわれる。つまずき、虐げられ、傷ついて教育を受ける機会を逃した人に学びの手当てを施す。ばんそうこうが果たす役割は大きい。