法曹の道を歩む女性を主人公に、本県も舞台になったNHK連続テレビ小説「虎に翼」には法廷の場面がよく登場する。先日の放送では傍聴席でメモを取る、記者とおぼしき一団がいた

▼そういえば、かつての傍聴席では一般の人がメモを取ることは許されなかった。認められたのは司法記者だけだった。法廷内の静穏を害するとか、被告や証人に心理的影響を与えるというのが理由だった。メモを取る行為が、審理に悪影響を及ぼすとは。今思えば首をひねらざるを得ない

▼さすがに最高裁は1989年、メモを取ることは原則自由とする判断を示し、各地の裁判所でも許されるようになった。当時の本紙記事はこの判断を「画期的」と評しているが、普通の市民感覚に沿った当然の判断だろう

▼刑事裁判に市民感覚を反映させる目的で裁判員制度が導入されて、ことしで15年になった。最高裁によると2月末までに裁判員と補充裁判員を務めた人は延べ約12万4千人。制度としてはすっかり定着したといえる

▼裁判員候補者に選ばれると原則辞退できないが、学生や仕事で重要業務がある人などは例外的に認められる。昨年の辞退率は66・9%だった。最高裁が経験者に昨年実施した調査では、選ばれる前は消極的だったという人は43・4%に上った

▼一方、務めた後は96・5%がいい経験だったと答えた。裁判の審理が法理に基づくのは当然だとして、市民感覚が適正に取り入れられてこそ、多くの人が信頼を寄せる司法となるのだろう。

朗読日報抄とは?