ことし、食欲の秋は政治の秋でもある。与野党でかじ取り役を決める選挙が本格化している。米国でも大統領選が熱を帯びる。米国の知日派政治学者ジェラルド・カーティスさんに「政治と秋刀魚(さんま)」という自伝風の日本観察記がある

▼なんでサンマが政治と関係あるの? タイトルを見て思う。カーティスさんは最初の東京五輪が開かれた1964年に初来日し、東京の郊外で下宿生活をした。毎日、大衆食堂で焼いたサンマやお新香(しんこ)、みそ汁などを口にして、和食にはまってしまう

▼当時の生活は質素で、安くてうまいサンマは庶民の大切な栄養源だった。銭湯に通い、人情にほだされる。「お金がなくてもリッチな人生を送れる-。これは、私がその頃の日本人から学んだ大切な教訓である」と記した

▼本の題名は、庶民の暮らしを大好きなサンマに重ねたようだ。平和主義と経済成長を実現していく、この国の政治をじっと観察した。90年代のバブル崩壊以降の状況には心配を募らせる。昨年来の自民党の裏金問題に対しては問題が先送りされているとして政治刷新を論壇誌で直言した

▼私たちの生活は彼が初来日した頃より豊かになったのか。サンマの漁獲はここ20年間で10分の1以下に激減した。今秋は出足が豊漁のようだが、後半は不漁との予報がある。温暖化による潮流変化や各国の乱獲などの影響も指摘される

▼庶民の味覚が食卓から遠のき、政治も沈滞したとしたら…。カーティスさんでなくても、そんな秋は迎えたくない。

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