出張先の京都から足を延ばし、奈良の飛鳥地方を旅してきた。観光ガイドさんに案内され、歴史の教科書によく登場する飛鳥時代の遺跡を巡った

▼泊まった民宿の目の前には「天武・持統天皇陵」があり、樹木でこんもりと覆われていた。後に天智天皇となる中大兄皇子が水時計「漏刻(ろうこく)」を初めて造ったとされる水落遺跡では、複雑な給水設備の遺構に感心した

▼古都を流れる飛鳥川の上流には、美しい棚田が広がっていた。万葉集にも歌われた「明日香風」と呼ばれる川風が心地よかった。この辺りで皇子と中臣(藤原)鎌足が、絶大な権力を振るう蘇我氏打倒の秘策を語り合ったと伝わる

▼国の文化審議会は先ごろ、2026年の登録を目指す世界文化遺産の推薦候補に「飛鳥・藤原の宮都」を選んだ。地元にとっては待ちに待った朗報だろう。ガイドさんは「佐渡の金山がようやく登録されたから、こちらも…」と期待を込めて語っていた

▼印象深かったのは「土木や工芸技術、天文知識などに優れた朝鮮半島の人たちが移り住み、飛鳥の礎を築いたのです」と教えてくれたことだった。流れが急な飛鳥川を分水し、下流の水田を潤した。古墳の副葬品には半島とのつながりを示すものが多い

▼韓国からの観光客の中には、自分たちの祖先が飛鳥の人々に大きな影響を与えた足跡を目にして、誇らしく思う人もいるという。世界遺産に登録されれば、さらに注目されるはずだ。古代の歴史から、半島との関わりを学び直した旅でもあった。

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