それは1989年、民放テレビの生放送中だった。忌野清志郎さん率いるバンドが実在のラジオ局をこきおろす曲を歌い始めた。放送禁止用語も使い「腐ったラジオ」「政治家の手先」など言いたい放題。ゲリラライブだった
▼反原発の楽曲をラジオ局が放送禁止にした憤りが理由とされるが、こちらはどうか。NHKのラジオ国際放送で中国籍の男性スタッフが原稿にない政治的な発言をした問題だ。NHKの担当理事が引責辞任し、会長らが報酬を一部返納する事態となった
▼男性は放送で沖縄の尖閣諸島は中国の領土だとし「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな」とも言った。放送後「日本の国家宣伝」に加担するリスクは負えないなどと語ったといわれる。中国当局を恐れていたということか
▼生放送における不測の言動は2年前のロシアでもあった。政府系テレビ局の女性社員がいきなり戦争反対を叫び、ウクライナ侵攻に抗議するポスターを掲げた。女性は解雇され、国外に逃れ、有罪判決も受けた
▼女性はその後、著書につづった。ロシアで独立系メディアがことごとくつぶされたこと。政府は支配下メディアを使って国民にプロパガンダを仕掛けていること。その片棒を担いだ後悔から行動を起こしたこと
▼放送の乗っ取り行為は局側には紛れもなく不祥事だが、それぞれ様相は随分異なるものだ。ちなみに清志郎さんは問題の曲を最後まで歌い切り、そのまま続けて別の2曲も歌った。たぶん、今なら無理なのだろう。