大相撲で十両以上の力士を「関取」と呼ぶ。語源は諸説ある。一説には「関」は力士の最高位を意味し、その地位を占めることを「関を取る」と言ったからという。中世末期に勝ち抜き形式の取組で最後まで勝ち残ることを「関を取る」と称したからという説もある

▼いずれにせよ、第一級の力士を指す言葉だ。その関取に「大」の冠をかぶせたのが「大関」である。「関取の中の関取」「別格の関取」といった意味だろう。横綱の地位が設けられるまでは最高位の呼称だったというのもうなずける

▼糸魚川市の能生中、海洋高で力士としての礎を築いた大の里が大関の地位をぐっとたぐり寄せた。秋場所で、昇進の目安である直近3場所合計33勝を突破し、千秋楽を前に2度目の優勝も決めた

▼生まれ故郷の石川県も、第二のふるさとである本県も沸き立った。共に元日の能登半島地震で打ちのめされた。きのうの記録的な豪雨でなお深い傷を負った地域もある。暮らしの再建に向け、重い荷を背負う人も多い

▼相撲には神事の側面がある。力士を神の化身になぞらえることもある。桁外れの体躯(たいく)と力を有する力士から、運気をもらえると感じる人もいる。郷土の星の躍進が、厳しい現実に立ち向かう力に少しでもならないか

▼初土俵からわずか9場所。関取の象徴である大銀杏(おおいちょう)はまだ結えない。異例の「ちょんまげ大関」が生まれるかもしれない。ただ、大器はさらにその先を見据えているだろう。関取の最高峰へ。歩みを止めないはずだ。

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