本紙読者文芸選者の馬場あき子さんは歌壇の重鎮であると同時に、みずみずしい随筆でも知られる。身辺雑記は少女のような純情が垣間見え、ニヤリとさせられる

▼「もぐらが来た」は害獣退治の顛末(てんまつ)報告だ。自宅の庭にモグラが出没した。地下道を縦横に掘り散らかす。春待つツバキやモモが心配でならない。そこで、なじみの植木屋さんと対策会議である。ミミズでおびき寄せ、わなで捕らえる作戦にした。だが敵はえさを取ってすり抜ける

▼人間とは勝手なもので、たかがモグラがのさばるのが我慢できない。植木屋さんはガスを使おうかと提案する。「えっ」。馬場さんはアウシュビッツを思い出し、庭の地下道でモグラ一家が惨死している光景を想像する。それなら敵と同居した方がましだと思い「よし、許してやるとも」とつぶやくのだ

▼希少種あり、害獣あり、ペットあり。生き物と人間との関わりは多様で、共生をどう探るかは難しい。今年4~7月の全国のクマ出没件数は1万件を超え、過去最多のペースという。本県でも急増中で冬眠前の秋、人身被害が心配だ

▼一方、環境省は鹿児島県・奄美大島のマングースの根絶を宣言した。ハブ退治のため人が持ち込んだが、ウサギなどの希少種を食べてしまった。「世界的に類がない」。国は外来種駆除に胸を張る。しかし、私たちの身勝手も省みるべきだろう

▼26日まで動物愛護週間だ。わが家のペットは幸せだろうか。答えてはくれないが、胸に手を当てよく考えてみたい。

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