「勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん」。立憲民主党の野田佳彦さんが、衆院本会議でこう呼びかけたのは2022年10月。その年の7月に凶弾に倒れた安倍晋三元首相の追悼演説だった

▼12年、野田さんは当時の民主党政権の首相として総選挙に臨み、大敗して自民党の政権復帰を許した。首相の座に就いた安倍氏は長期政権を築き「勝ちっ放し」の状況をつくった。敗軍の将となった野田さんは悔しさを引きずりながら、哀惜の念を述べたのだった

▼その野田さんが、民主党の流れをくむ立民の代表選を勝ち抜いた。野党第1党の党首として、政権奪取を目指す先頭に立つことになる。元首相の立場から再び政権トップの座に就くべく動き出した

▼2年前の追悼演説では、2度にわたって首相の座を手にした安倍氏について、こう述べていた。「『再チャレンジ』という言葉で、たとえ失敗しても何度でもやり直せる社会を提唱したあなたは、自ら実践してみせた」。いま改めて、自らの再チャレンジに向けた思いを強くしているのだろう

▼安倍氏、あるいは自民の「勝ちっ放し」を許したのは、ほかならぬ野田さんであり野党である。自民派閥の裏金事件が発覚して以降も立民の支持率はさほど上がっておらず、自民1強の状態は続いている

▼政治家として経験豊富な野田さんだが、自身や立民が政権を担う資格があると有権者を納得させられるかどうか。前回首相に就いた時よりも、ずっと厳しい道のりが待っているのかもしれない。

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