プロ3年目の背番号17が球史に残る大記録を打ち立てた。東日本大震災の被災地で生まれ育った新エースの快挙は、地元住民やファンを勇気づけたに違いない。

 プロ野球ロッテの佐々木朗希投手(写真)が10日、オリックス戦で1人の走者も出さず、打者27人で勝利投手となる完全試合を達成した。巨人の槙原寛己さん以来28年ぶり史上16人目で、20歳5カ月での達成は史上最年少だ。

 指名打者制のあるパ・リーグでは1978年に長岡市出身の今井雄太郎さん(阪急)が記録して以来、44年ぶりとなる。

 この日は13者連続奪三振のプロ野球記録も樹立した。1試合19奪三振もプロ野球タイ記録で、まさに記録ずくめといえる。

 力みのないマウンドさばきが光った。自慢の直球とフォークボールで相手打線を寄せ付けず、外野への当たりは二つだけだった。

 今季初めて開幕ローテーションに入り好投していたとはいえ、完投も完封もしたことがなかった。

 160キロを超える速球を武器に岩手・大船渡高校時代から「令和の怪物」と呼ばれた。連投による故障を防ぐため、監督の判断で登板せず、夏の甲子園出場を懸けた岩手大会決勝でチームが敗れたことは記憶に新しい。

 岩手県陸前高田市に生まれ、小学3年生の時に被災した。津波で父と祖父母が犠牲になり、自宅も流された。

 学校のグラウンドには仮設住宅が建ち、練習は河川敷などで行った。持ち前の強い精神力は、逆境の中で育まれたのだろう。

 震災11年の今年3月11日には「こうして野球に打ち込めているのはたくさんの支えがあったから」と感謝の言葉を述べた。

 活躍する姿を見せることが恩返しになるとの決意をにじませていた。

 佐々木投手の偉業に対し、被災地の住民からは「元気をもらえる」「被災地の希望だ」などと喜びの声が聞こえる。

 米大リーグではア・リーグ最優秀選手(MVP)に昨季初めて選ばれたエンゼルスの大谷翔平選手が5年目の今季も投手と打者の「二刀流」で球場を沸かしている。カブスの鈴木誠也選手も10日の試合でメジャー初本塁打を放った。

 ロシアによるウクライナ侵攻や感染禍などで、社会は閉塞(へいそく)感に包まれている。その中で挑戦を続ける選手の姿には、私たちを励まし明るくする力がある。さらなる活躍を期待したい。