新潟市の住宅街で暮らしていて、ここ20年ほどでずいぶん減ったと感じるのが個人経営の飲食店だ。先日も、すし屋の引き戸に閉店を知らせる張り紙があった

▼行きつけの喫茶店は今春、店主が病気になり一時休業した。ほどなく回復し、営業時間は短くなったが、店主はまた元気にカウンターに立っている。家族で足を運ぶと子どもに一声かけてくれる。心がほんのり温かくなる

▼後継者の不在やチェーン店との競合もあり、個人経営の店が営業を断念するケースは少なくないようだ。そんな中、スポーツイベント開催などの地域おこしに携わる男性が住民に背を押されて出した店がある。新潟市の下町(しもまち)と呼ばれる地域で、かつては消防署だった建物を改装した。その名も「火の用心」。遊び心がのぞく

▼「昔は近くの通り沿いに店が13軒あったけど、今はゼロ」。出店した久保田文博さん(76)は語る。この夏オープンし、昼はランチ、夜は居酒屋というスタイルだ。昼時は高齢者や会社員らが訪れ、カレーライスやしょうが焼き丼が人気を集める

▼住民からは釣った魚や育てた野菜の差し入れがあり、店で提供することもある。毎日盛況とはいかないが、久保田さんは「店を出してくれて、ありがとうと言われるんだ」と手応えを感じている

▼新型ウイルス禍では多くの店が打撃を受けた。近頃は、食材をはじめとした物価高の逆風が吹く。でも、気軽に集える店の存在は貴重だとつくづく思う。日々の生活に彩りをもたらしてくれるから。

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