県外から来たお客をもてなす際、地元産の食材が登場すると喜ばれる。いわゆる「地物」のうまさを褒められると、まるで自分が褒められたようにうれしくなる
▼とりわけ佐渡には多くの自慢の食がある。エビ、イカ、ブリ、カキなどの海産物、コメ。おけさ柿やイチジクなどフルーツも一級品だ。食目当ての観光客も多い。しかし気候変動などにより、島の食が脅かされているという
▼その一例がトビウオだ。乾燥させた「あごだし」は雑味が少なく、上品な味で食通をうならせている。ところが近年は不漁続きで、郷土食として愛されてきた「すり身」は市場から姿を消すことになった
▼10年ほど前の漁獲は約200トンだったが、ことし6、7月の漁期は約0・5トンしか捕れなかった。長年すり身を製造してきた水産加工会社は原材料の確保が難しくなり、事業の清算を決めた。社長は「こんなに突然、揚がらなくなるのは想定外だった」と肩を落とす
▼温暖化による海の異変が指摘されるようになって久しい。北海道ではサケの漁獲が落ち込み、これまで食べる習慣がさほどなかったブリの豊漁が伝えられている。佐渡でも特産のブリやイカ、海藻の不漁が続く
▼当たり前のように享受してきた恵みを巡る状況は年々厳しさを増している。新たな環境に応じた食文化の創造も求められるのかもしれない。とはいえ、伝統的な食は地域の文化そのものである。長い時間をかけて地物のブランドを培ってきた関係者の努力も無にしたくはない。